教室を離れて、1年経ちました。
私は2019年の7月まで5年間、
東京都杉並区で小さな教室を借りて授業をしていました。
雇われ店長ならぬ、雇われ教室長。
授業の編成、教材作り、講師の採用まで
すべてを担当して
それなりの苦労はしたものの、とても恵まれた環境だったと思います。
そんな教室を離れてから、ちょうど1年。
オンライン教室にも慣れてきたので
今回は対面授業とオンライン授業、
それぞれの授業の特徴や、実際に運営をした感想を
文章にしていきたいと思います。
- オンラインで学ぶか、塾に通うか迷っている方
- 授業をオンライン化したい教育関係者の方
- 個人でオンライン教室を開業したい方
- 教育のオンライン化に関心や不安がある方
のお役に立てれば嬉しいです(*^^*)
ライブ感と、ライフ感
対面授業とオンライン授業。
それぞれの特長を簡潔に表現するのであれば
対面授業=ライブ感
オンライン授業=ライフ感
という言葉に尽きると思います。
以下、詳しく説明していきます(^o^)
対面授業ならではの「ライブ感」①
教師が場を演出できる
西荻窪で塾をやっていた時のこと。
授業帰りによく、塾長とごはんを食べながら
今、それぞれの教室でどんな授業をしているのか、
どんな生徒がいて、どんな対応をしているか、どんなことに悩んでいるのか・・・
相談をしたり、理想の指導方法や教育論を語り合い、共有していました。
そこで、塾長はよく授業のことを「ステージ」にたとえていました。
生徒に伝えたい知識がある限り、
その場でありとあらゆる演出をして、それを表現するのが教師の仕事。
その意味で教師は、監督であり、脚本家であり、演者でもある。
だから,教室のレイアウト、服装、表情、声のトーン、言葉の選び方、目線の配り方、声掛けのタイミングまで・・・
すべてにこだわり続けなくてはならないよ。
と、いうことだったと思います(毎回お酒を飲んでいたのでうろ覚えな部分もありますが)。
なるほど、
授業には、その場に居合わせた生徒だけが共有できる価値がある
1回1回、気合を入れて臨まなければいけないなあと
身の引き締まる思いがしたものです。
ちなみに、塾長からは
授業前に、コンビニのおにぎりを食べているだけでも注意されました。
「人に価値を伝える仕事をしているならば、適当な価値観で食事を選ぶな」と。
うーむ、奥深い。
このように、その場にいる子どもたちに背中で語る教育ができて、
五感を通じてさまざまな想いを伝えられるのが対面授業の価値だと思います。
(塾長はおもしろい人なので、杉並近辺で塾を探している方はぜひ会いに行ってみてください!)
対面授業ならではの「ライブ感」②
生徒同士での学び
また、対面授業には生徒同士の交流、参加者全員でその場を作り上げる楽しさもあります。
例えば、学期末になるといつも
「2000字程度の長い作文を書いて、生徒同士で添削し合う」
という授業を行っていたのですが、
自分の表現したものを他の人に読まれることによる緊張や、
一生懸命に書き進めている隣の席の生徒の影響で
「良い作文を書きたい!」という向上心が刺激されることがありました。
また、数人で同じ物語作品の読み合わせをする授業では、
「最後のセリフには、〇〇って意味があるんじゃない!?」
「いや、ちがうよ。2ページ前に△△って書いてあったじゃん。□□だよ!」
のように、
感想や解釈をその場で口にし合う習慣ができて、
文章をより深く読み込むことができる
ということもありました。
「ライブ感」によるストレスもある
ここまで読むと、
「やっぱり対面授業の活き活きとした「ライブ感」は良いなあ〜」
とお思いになるかも知れませんが、ライブ感のある授業には
それ特有のストレス・デメリットもあります。
①生徒同士の比較・同調圧力
他の生徒と学ぶことで、必ずしも良い影響を受けるわけではありません。
数人で授業をしていると、隣の席の子のノートを覗きながら、
「こいつ問題4までしか終わってねーぞ。遅いなぁ。」
などと言い出す子が、必ず出てきます。
直接口には出さない子どもにも
自分と周りの子の学習速度や正答率を比べる/比べられることでのストレス、
それゆえの集中力低下が生じることが、よくあります。
②緊張
「学校に行くと、いつも頭痛がするの・・・塾は個別がいい。」
と話す子がいました。
教師が緊張の緩急を演出するということは、
それに合わせる側の生徒はそれなりに疲れます。
うまくいけば、この緊張感が集中力アップに繋がる一方、
マイペースに進められないことがストレスとなる場合もあります。
オンライン授業の「ライフ感」とは?
さてさて、
次はオンライン授業の特徴である、
「ライフ感」についてお話していきます。
とはいえ「ライフ感」は、私が勝手に作った言葉なので・・
「ライブ」感よりもイメージが湧きづらいですよね(;´`)
語源の「life」は
「生命/人生」と「生活」どちらの意味も含んだ、
広義な「生」を表現することばです。
オンライン授業は、実際に始めてみると
この「life」を大切にできる場面がとても多いと感じました。
あれこれ説明するよりも、
私が普段、生徒とチャットでやりとりしている内容を見てもらったほうがイメージがしやすいと思うので
できるだけリアルなまま、公開してみます。
※個人情報保護のため、実際の内容を少しだけ修正して掲載しています。
ケース①
ある時、授業30分前に生徒からラインが届く。
😣 「すいません!今部活から帰ってきたばかりで、めちゃくちゃお腹すいてるんでごはん食べる時間もらってもいいですか(;_;)」
🐱 「おつかれさまです!しっかりお食べ。笑 では1時間後、19時にスターしましょう!」
😣 「ありがとうございます!了解です!」
ケース②
ある日、Skypeで生徒からメッセージが届く。
ちなみに、この子は漢字を覚えるのが苦手。
👦 「テストの日程が決まりました!(添付画像とともに)」
🐱 「了解!では、テスト範囲に合わせて漢字テストを作って送るので、解けたら写真を撮って送ってくださいねー」
👦 「できました!」
(添付された写真を見ると、正答率は5割程度。)
🐱 「さっき間違っていた漢字を使ってもう1度テストを作るので、今度は辞書などで調べながら書いてみてください!解けたらまた写真を送ってくださいね。」
👦 「よろしくおねがいします(;_;)」
ケース③
田舎暮らしのヤマダ。久しぶりに都市部に行って買い物していたら、生徒からのSMSに気がつく。
👧 「この前の作文課題、グーグルドライブで共有したいのでアカウント名を教えてもらえますか?」
🐱 「OK!アカウント名は、〇〇だよー。今出先なので、帰ったら添削してコメントを入れておきますね。」
👧 「よろしくおねがいします!」
オンライン授業の「ライフ感」①
それぞれの生活を尊重する
いかがでしょうか。
チャットを見てもらうと、
オンライン授業には「ライブ感」がなくとも「ライフ感」がある
という意味が、少しは伝わったかなと思います。
生徒と教師
それぞれの生活が基本にあり、生活の合間で授業を共有し合う
イメージです。
たとえば、
ケース①のように、柔軟に授業時間を変更できるのは、
どちらも自宅にいるため
時間を「奪う/奪われる」ことによるストレスを
最小限にできるからです。
また、ケース②のように、
生徒のスケジュールと特性に合わせた対応がすぐにできるのも、
オンラインならではです。
あらかじめ決まった時間割に沿って、その時だけ授業を行うのでなく、
授業時間・学習時間を日常生活の中に組み込むことができるのがオンライン授業の特徴であり、強みだと思います。
オンライン授業の「ライフ感」②
1対1の関係を築く緊張感
上のやり取りだけを見ると、仲の良い気軽な関係にも見えますが、
直接会うことのない関係だからこそ、信頼関係を築くための見えない緊張感が保たれているのも、
オンラインの授業の特徴です。
これまで「教師/生徒」の関係は
「教師が生徒に必要なことを伝え、生徒が教師の言ったことを記憶する」
という形式に沿ったものだったように思います。
しかし、はじめから役割が固定されている関係は、
うまくいかない場面でも、双方が少しずつ我慢をするしかなかったり、
簡単には破綻しないという安堵感から、惰性や甘えも生まれやすくなったり。
デメリットもあります。
(冷え切った夫婦関係みたい)
一方、
私のようなオンライン授業は個人契約なので
生徒さんにも私にも、互いを「断る」という選択肢が常にあります。
また、オンラインのやり取りはログを残すことができますし、
もちろんそれを、保護者の方が後から確認することもできます。
この緊張感のもとで、良好な関係を続けるためには
あらかじめ決められた「先生役」「生徒役」に徹するだけならば必要のない知識や、
スキルが必要となってきます。
たとえば、
- 質問をする時には、言葉を慎重に選ばないと相手に伝わらないこと
- スケジュールの変更を願い出る時には、理由を添える方が相手に迷惑がかからないこと
- 「わからない」「できない」など少し言いづらいことでも、素直に伝える方が学習は効率的に進むということ
これらをいちいち気にすることを
面倒だと感じる人もいるかもしれませんが、
面倒と信頼を両方引き受けることは、人間関係構築の基礎でもあるので、
これを「教師/生徒」間にも適応させて、友好な関係のもとで学ぶほうが
結果的には、スムーズに学習が進むと私は感じています。
もし、ミスマッチが発覚しても、他の人との関係を築き直せばいいですしね。
ケース③のように、生徒の側から学習方法や使用してみたいアプリなどを提案してくれることもあります。
(私よりネットを上手に使いこなしている子から、活用法を学ぶこともしばしば)
このような
1対1で、より良い関係を模索していく時の緊張感は
オンライン授業で感じられる「ライフ感」のなかでも
個人的に今、価値や可能性を感じている部分です。
ライフ感のないオンライン授業は、対面授業の劣化版になりかねない
オンライン授業ももちろん、やり方によってはデメリットがあります。
個人的にもったいないな、と思う例は
教師が黒板の前で喋る、講義映像のライブ配信です。
実際に、学校がオンライン配信した授業を受講した生徒さんが、
「やっぱりリアルの方がいい・・・」
と言っていたのを聞いたことがあります。
オフラインと同じことをオンライン授業でやろうとすると、
どうしても対面授業よりライブ感の無い「劣化版」となってしまいます。
講義映像を今から撮影するのならば、
既に完成された映像教材のなかから優れたものを生徒に見てもらい、
足りない部分を、教師が他のアプローチで補う方が良いのではないかと思います。
アプローチ方法は無限にありますが、
- 対面授業に近づけようとするのでなく、オンラインでしかできないことにフォーカスしていく
- IT化できることと、人間同士でしかできないことを明確にしていく
ことが、オンライン授業を通じて
日常に溶け込んだ、ライフ感ある学びを実現するコツなのではないかと
私は思っています。
まだまだ私も試行錯誤中なので、オンライン授業の研究・報告はこれからも続けていきます(^^)
まとめ
今回は、対面授業とオンライン授業の比較をしました。
対面授業がミュージシャンの「ライブ」なら、
オンライン授業は「spotify」のようなもの。
非日常を体感する学び、日常に寄り添う学び
どちらが優れているかではなく、どちらにもそれぞれの良さがある。
音楽の楽しみ方に決まりがないように
学び方も個人が自由に選べばいい
そう、私は思います。
教わる側も、教える側も、
目的や好み、状況に合わせて
さまざまな授業スタイルを試してみてくださいね(^O^)